メンタルヘルスにおけるリスク&クライシスマネジメント

シエアする:

皆さんこんにちは!

本日は、メンタルヘルスにおけるリスクマネジメントとクライシスマネジメントについて投稿する。

メンタルヘルスの観点から、リスクマネジメントとクライシスマネジメントは、組織や個人が精神的・心理的な健全さを維持するために重要な役割を果たすが、そのアプローチや目的は異なる。リスクマネジメントは、潜在的な問題やストレス要因を未然に防ぐために計画的にリスクを識別し、評価し、対処するプロセスであり、クライシスマネジメントは、既に発生した危機的な状況に迅速かつ効果的に対応するためのプロセスである。

リスクマネジメントとは

リスクマネジメントは、予期される問題やトラブルが生じる可能性を最小化することを目的とした事前の対応である。メンタルヘルスに関して言えば、個人や組織がどのようにしてストレスや不安、鬱状態を引き起こす可能性のある要因を特定し、それらを軽減するための措置を講じるかが中心である。特に職場環境においては、仕事の負荷や人間関係、働き方改革などが重要なリスク要因となる。

欧米の事例として、GoogleやFacebookなどの大手テック企業では、従業員のメンタルヘルスを守るために「メンタルヘルス・デー」という休暇制度を設けたり、社内カウンセリングやウェルビーイングプログラムを導入している。これらは、職場におけるストレスやメンタルヘルスの問題が発生する前に従業員が休息を取れるようにするための措置であり、リスクマネジメントの一環である。

一方、日本の事例としては、ソフトバンクが導入している「ストレスチェック制度」が挙げられる。この制度は、全従業員に対して定期的にストレス度をチェックし、早期に問題を発見して対処する仕組みである。これは、従業員のメンタルヘルスリスクを未然に防ぎ、深刻な問題に発展するのを防ぐことを目的としている。

クライシスマネジメントとは

一方、クライシスマネジメントは、リスクが実際に現実のものとなり、危機的な状況に陥った場合に、それに対処するためのプロセスである。メンタルヘルスの観点からは、深刻なストレス障害やうつ病、パニック発作などの発症後にどのように対応するかが焦点となる。個人や組織が危機に対処し、被害を最小限に抑え、回復を図るための具体的な手段が求められる。

欧米におけるクライシスマネジメントの事例としては、2015年にアメリカのテック業界で広まった「カンパニー・オーバードライブ」現象への対応が挙げられる。スタートアップやIT企業で働く従業員が過労によりメンタルヘルスを崩す事例が相次ぎ、企業は緊急対策として、短期的なメンタルヘルス支援プログラムや臨時休暇制度を導入し、従業員を支援するための対策を講じた。この対応は、すでに進行している問題に対して迅速かつ包括的に行われたクライシスマネジメントの一例である。

日本においても、2016年の電通の過労自殺事件が大きなクライシスマネジメントの一環として取り組まれた。この事件を契機に、電通を含む多くの日本企業は、働き方改革や労働時間の短縮を図り、メンタルヘルスケア体制を強化する方針を打ち出した。また、企業だけでなく政府も対応を強化し、過労死を防ぐための法律やガイドラインが整備された。

リスクマネジメントとクライシスマネジメントの比較

リスクマネジメントとクライシスマネジメントの大きな違いは、問題が発生する前に対応するか、発生後に対応するかという点である。リスクマネジメントは予防的なアプローチであり、メンタルヘルスのリスクを評価し、問題が生じないようにするための計画や対策を事前に講じる。一方で、クライシスマネジメントは、すでに問題が発生した状況に対処するための手段であり、迅速かつ効果的に対応することが求められる。

これらの違いは、ビジネスにおいても重要な役割を果たす。企業は、従業員のメンタルヘルスを守るために、リスクマネジメントを重視して予防策を講じるだけでなく、万が一の危機に備えたクライシスマネジメントも必要である。特に現代のビジネス環境では、急速に変化する市場や労働環境、さらにはパンデミックのような予測不可能な危機に対処するための包括的なマネジメントが求められている。

Business Continuity Plan (BCP)とCrisis Management Plan (CMP)

BCP(Business Continuity Plan)とCMP(Crisis Management Plan)は、ビジネス運営においてリスクや危機に対処するための具体的な計画である。BCPは、災害や予期せぬ事態が発生した場合に、ビジネスをいかにして継続するか、または早急に復旧させるかに焦点を当てた計画である。これは、リスクマネジメントの一環として機能し、長期的なビジネスの安定性を確保するためのものである。

メンタルヘルスの観点からは、BCPには従業員の健康と安全を守るための施策も含まれる。たとえば、パンデミックのような危機が発生した際に、テレワークを推進し、従業員が安全かつ健康に働き続けることができる環境を整えることが、BCPの一環として重要である。欧米企業では、2020年のCOVID-19パンデミックの際に、多くの企業が迅速にBCPを実行し、リモートワーク体制を整え、メンタルヘルス支援の強化を図った。

一方、CMPは、クライシスマネジメントに特化した計画であり、危機が発生した際に迅速に対応し、被害を最小限に抑えるための具体的な行動計画である。CMPは、危機発生後の対応に焦点を当てており、危機的状況からの回復を支援する。メンタルヘルスの危機に関しては、例えば、従業員がストレス障害や精神的な健康問題に直面した場合に、どのようにしてサポートを提供するか、どの専門機関と連携するかがCMPに盛り込まれる。

日本でも、BCPやCMPの策定は重要視されている。特に東日本大震災やCOVID-19の影響を受け、多くの企業がこれらの計画を見直し、危機管理体制を強化している。日本企業は伝統的にリスクマネジメントに重点を置いていたが、近年ではクライシスマネジメントの重要性がより一層認識されている。

まとめ

メンタルヘルスの観点から、リスクマネジメントとクライシスマネジメントは、それぞれ異なる目的とアプローチを持つが、どちらも組織や個人が健全な精神状態を保つためには不可欠である。リスクマネジメントは予防的な対策を講じ、潜在的な問題を未然に防ぐことに焦点を当てている。一方で、クライシスマネジメントは、問題が発生した後に迅速かつ適切な対応を行うことで被害を最小限に抑え、状況を回復させることを目的としている。両者は補完的な関係にあり、リスクが完全に排除されることはないため、危機に対応できるクライシスマネジメントの体制も同時に整えておくことが重要である。

欧米の企業や組織では、メンタルヘルスのリスクを管理し、従業員が心身ともに健康で働ける環境を整えるために、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの両方が高度に組み込まれている。特に、GoogleやFacebookのような大企業は、従業員の幸福を重視し、ストレスが深刻化する前に対応するためのプログラムを積極的に提供している。これに対して、クライシス時には専門家によるカウンセリングや医療機関との連携を迅速に行い、問題が深刻化するのを防いでいる。

一方で、日本の企業においては、長時間労働や過重労働がメンタルヘルス問題の原因となるケースが多く、過労やうつ病、自殺といった深刻な結果につながることも少なくない。リスクマネジメントに関しては、ストレスチェック制度などを通じてリスク要因を特定し、早期の対応を図っているものの、クライシスマネジメントにおいては欧米に比べて遅れている点も指摘されている。過労自殺事件などが発生した際には、企業や政府が後手に回ることが多く、迅速な対応が求められる状況が続いている。

Business Continuity Plan (BCP)とCrisis Management Plan (CMP)の役割

メンタルヘルスリスクの観点から、BCP(Business Continuity Plan)とCMP(Crisis Management Plan)は、企業が安定した運営を維持し、従業員の健康を守るために極めて重要な役割を果たしている。BCPは、リスク発生時にビジネスがどのようにして継続されるかを計画するものであり、CMPは、危機が発生した際にその影響を最小限に抑えるための具体的な対応策を含んでいる。

たとえば、COVID-19のパンデミックが発生した際、企業は急速にBCPを見直し、リモートワークの導入や従業員の健康管理の強化などを図った。これにより、感染リスクを回避しながら業務を継続することができた。また、リモートワークの推進に伴う孤立感やストレスの増加に対しては、従業員のメンタルヘルスをサポートするためのリソースがCMPの一環として提供された。

CMPの具体例としては、従業員がストレスやメンタルヘルスに関する問題を抱えた際の相談窓口や、専門的なサポートを受けられるカウンセリングサービスの提供などがある。また、メンタルヘルス危機が発生した場合の社内対応マニュアルや、危機対応チームの設置なども含まれる。これにより、危機的な状況が発生しても、従業員が適切な支援を受けられる体制を整えることができる。

欧米と日本における今後の課題

欧米と日本の企業文化におけるメンタルヘルスに関するリスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いは、働き方や労働文化に根ざしている部分が大きい。欧米では、個人の幸福やワークライフバランスが重視され、従業員のメンタルヘルスケアが企業の競争力に直結すると考えられている。そのため、リスクが生じる前に問題を予防するためのシステムが高度に発展している。

これに対して日本では、長時間労働や過度の責任感が美徳とされる文化が残っており、メンタルヘルスの問題が表面化しにくい傾向がある。企業も従業員も、メンタルヘルス問題が個人の「弱さ」と見なされることを恐れ、問題が深刻化するまで対応が遅れることが少なくない。こうした文化的な背景は、リスクマネジメントおよびクライシスマネジメントの導入や運用における大きな課題となっている。

しかし、今後の日本においても、労働環境の変化や国際的なビジネス競争の激化に伴い、メンタルヘルスのリスク管理がますます重要視されることは間違いない。企業は、従業員のメンタルヘルスケアをビジネスの持続可能性の一環として捉え、より積極的なリスクマネジメントとクライシスマネジメントを導入していく必要がある。具体的には、メンタルヘルスに関する早期介入策やカウンセリングサービスの強化、働き方改革の推進、そして従業員が安心して相談できる環境の整備が求められる。

結論

リスクマネジメントとクライシスマネジメントは、メンタルヘルスの観点から見ても、組織や個人が健全な状態を維持し、危機に対処するために不可欠なプロセスである。リスクマネジメントは予防的なアプローチとして、ストレスや精神的負担の原因を事前に特定し、それを最小限に抑えるための取り組みである。一方、クライシスマネジメントは、危機が発生した際に迅速かつ効果的に対応し、被害を最小限に抑えるための手段である。

欧米においては、従業員のメンタルヘルスを重要視し、リスクと危機管理を包括的に行う企業文化が定着している。日本においても、過労やストレスによるメンタルヘルス問題が深刻化しており、これまで以上にリスクマネジメントとクライシスマネジメントの強化が求められている。

また、BCP(Business Continuity Plan)とCMP(Crisis Management Plan)というビジネスの継続性と危機対応のための計画は、メンタルヘルス問題に対する包括的な戦略の一環としても重要である。特に現代の複雑で変化の激しいビジネス環境においては、組織がリスクを予測し、危機に迅速に対応する能力がますます求められている。

今後、日本企業がメンタルヘルスのリスク管理を強化し、国際的な競争力を維持するためには、リスクマネジメントとクライシスマネジメントのバランスを保ち、従業員の幸福と健康を中心に据えた包括的な戦略を構築することが重要である。

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投稿者プロフィール

市村 修一
市村 修一
【略 歴】
茨城県生まれ。
明治大学政治経済学部卒業。日米欧の企業、主に外資系企業でCFO、代表取締役社長を経験し、経営全般、経営戦略策定、人事、組織開発に深く関わる。その経験を活かし、激動の時代に卓越した人財の育成、組織開発の必要性が急務と痛感し独立。「挑戦・創造・変革」をキーワードに、日本企業、外資系企業と、幅広く人財・組織開発コンサルタントとして、特に、上級管理職育成、経営戦略策定、組織開発などの分野で研修、コンサルティング、講演活動等で活躍を経て、世界の人々のこころの支援を多言語多文化で行うグローバルスタートアップとして事業展開を目指す決意をする。

【背景】
2005年11月、 約10年連れ添った最愛の妻をがんで5年間の闘病の後亡くす。
翌年、伴侶との死別自助グループ「Good Grief Network」を共同設立。個別・グループ・グリーフカウンセリングを行う。映像を使用した自助カウンセリングを取り入れる。大きな成果を残し、それぞれの死別体験者は、新たな人生を歩み出す。
長年実践研究を妻とともにしてきた「いきるとは?」「人間学」「メンタルレジリエンス」「メンタルヘルス」「グリーフケア」をさらに学際的に実践研究を推し進め、多数の素晴らしい成果が生まれてきた。私自身がグローバルビジネスの世界で様々な体験をする中で思いを強くした社会課題解決の人生を賭ける決意をする。

株式会社レジクスレイ(Resixley Incorporated)を設立、創業者兼CEO
事業成長アクセラレーター
広島県公立大学法人叡啓大学キャリアメンター

【専門領域】
・レジリエンス(精神的回復力) ・グリーフケア ・異文化理解 ・グローバル人財育成 
・東洋哲学・思想(人間学、経営哲学、経営戦略) ・組織文化・風土改革  ・人材・組織開発、キャリア開発
・イノベーション・グローバル・エコシステム形成支援

【主な論文/プレス発表】
「仕事と脳力開発-挫折また挫折そして希望へ-」(城野経済研究所)
「英語教育と脳力開発-受験直前一ヶ月前の戦略・戦術」(城野経済研究所)
「国際派就職ガイド」(三修社)
「セミナーニュース(私立幼稚園を支援する)」(日本経営教育研究所)

【主な研修実績】
・グローバルビジネスコミュニケーションスキルアップ ・リーダーシップ ・コーチング
・ファシリテーション ・ディベート ・プレゼンテーション ・問題解決
・グローバルキャリアモデル構築と実践 ・キャリア・デザインセミナー
・創造性開発 ・情報収集分析 ・プロジェクトマネジメント研修他
※上記、いずれもファシリテーション型ワークショップを基本に実施

【主なコンサルティング実績】
年次経営計画の作成。コスト削減計画作成・実施。適正在庫水準のコントロール・指導を遂行。人事総務部門では、インセンティブプログラムの開発・実施、人事評価システムの考案。リストラクチャリングの実施。サプライチェーン部門では、そのプロセス及びコスト構造の改善。ERPの導入に際しては、プロジェクトリーダーを務め、導入期限内にその導入。組織全般の企業風土・文化の改革を行う。

【主な講演実績】
産業構造変革時代に求められる人材
外資系企業で働くということ
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